第3章|坂道の上にあった光  

坂道の先に光を感じる女性と犬のシルエット|パテラを向き合った日

手術を勧められた病院と、
「手術はしなくて大丈夫」と言ってくれたセカンドオピニオンの病院。

真逆の言葉の間で揺れながら、
私たちは高速道路を走っていました。

運転席には主人。
私は助手席。
ラムは後部座席のクレートの中で、静かに丸くなっていました。

高速を使って一時間半。
通うには、少し遠い距離でした。

でもその日は、
病院へ向かう前に、近くの広い公園へ寄りました。

診察の前に、ラムを思いきり発散させてあげたかったからです。

芝生の上を軽やかに歩く姿を見ながら、
本当に手術が必要な子には見えない——
そんな思いが、何度も胸をよぎりました。

それでも、確かめに来たのです。

整形に強いと評判で、
パテラの症例も多いと聞いた
みなとよこはま動物病院。

国道から細い路地へ入り、
駐車場に車を停め、
そこから急な坂道を上っていく。

その坂道が、
まるで“覚悟”を試しているように感じました。

病院は、坂の上にありました。

扉を開けると、
明るく、開放感のある空間。

空気まで澄んでいるように感じました。

診察室の扉は開け放たれていて、
獣医師さんと患者さんの会話や、
時折聞こえる笑い声が待合室まで届いていました。

重たい空気は、どこにもありませんでした。

受付のスタッフさんも、
獣医師さんたちも、みんな明るく気さくで、
どこか温かい。

待合室では、
岡山や千葉など遠方から来た方もいらして、
自然に話しかけてくれました。

深刻そうな表情の人は、いませんでした。

でも——
私だけは、
手のひらに汗をにじませていました。

名前を呼ばれ、診察室へ。

ベテランらしい男性の先生が、
これまでの経緯を丁寧に聞いてくださいました。

遮ることなく、
ゆっくりと。

「この子、可愛いね。」

そう言いながらラムの体に触れ、
膝を確認し、
パテラについて分かりやすく説明してくれました。

そして、開口一番。

「手術はしなくて大丈夫です。ラムちゃん、全然大丈夫ですよ。」

その瞬間。
肩の力が、すっと抜けました。

張りつめていた糸が、
静かにほどける感覚でした。

でも先生は続けました。

「ただし、何もしなくていいわけではありません。」

リハビリの提案でした。

パテラの子は、無意識に後ろ足をかばって歩く。
だから筋肉がつきにくい。

足を“使っても大丈夫だよ”と教えてあげることが大切。

散歩はコンクリートの平らな道を、
ゆっくり丁寧に。

そして毎朝、散歩前に五分間のマッサージ。

後ろ足の内側から付け根にかけて、
やさしくさする。

無意識にかばうことで硬くなる部分を、
ほぐしてから歩かせることで、
可動域が広がり、筋肉がつきやすくなる。

フードとは別に、茹でたささみでたんぱく質を補うこと。

そして体重管理。

「細いって言われるの?ラムちゃん全然普通ですよ。
むしろ4kgくらいまで落としてもいい。
その方が筋肉もつきやすいし、ラムちゃんか動きやすい理想体重です。」

その言葉に、
今まで周囲の言葉で傷ついていた心まで、
救われた気がしました。

筋肉が付くと体重も増えるのでは、と不安になり
私は思わず質問しました。

でも先生は、穏やかに答えてくれました。

皮下脂肪で体重が増える事はあっても、1歳過ぎて筋肉で2kgも3kgも体重が増えていく事はないそうです。

サプリメント「マッスルブースター」の提案。
そして、筋肉をやわらかくするための高濃度酸素室。

リハビリは、
将来の関節炎や靭帯断裂といった
二次的なトラブルを防ぐためのものだと教えてくれました。

「一ヶ月後、また来てください。」

診察室を出る頃には、
来たときとはまったく違う気持ちになっていました。

帰り道。
空が、やけに明るく見えました。

「ラムちゃん、全然大丈夫ですよ。」

あの言葉に、
どれだけ救われたことか。

不思議なことに、
この病院を訪れると、
いつも帰りは晴れやかな気持ちになるのです。

坂道を下りながら、私は思いました。

ここに来てよかった。

迷った時間も、
揺れた気持ちも、
全部、必要なことだったのかもしれません。

前の記事:第2章|”小さすぎるね”の奥にあったもの
▶ 次の記事:第4章|正解をやっているのに、うまくいかない

🌿シリーズ一覧はこちら

🌿あの頃のラムの様子も、
よろしければのぞいてみてください😊

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次